もうすぐ四ヶ月

 あなたが逝って、四ヶ月になろうとしています。近頃やっと、あなたが乗っていたバスの音が聞こえても、玄関のドアは決して開かないことが分かってきました。でも、ふとした瞬間に「なぜ居ないの」とまだ思うのですよ。スーパーで夕食の材料を買っているとき、あなたが大好きだったカレーを作った時、隣近所から楽しい団らんの声が聞こえてくる時、ストーブを出して欲しいなと思った時など。
 まだ私は感情の整理ができていません。あの夏の日、あなたが自室で帰らぬ人となった姿を見つけた時の衝撃は、今も毎日のように私を苦しめているのです。何をどうやっても二度と息を吹き返さないだろうと分かるあなたの状態が受け容れられず、私は泣きもせず、ただ傍に座っていましたね。冷たくなったあなたの躯のあちこちをさすりながら。
 今日の日まで私は何度もあなたの後を追いたいと考えました。実際、それは容易なことのように思われました。ひとり残され、あまりに心もとなくて、この先どんなふうに生きればいいのか全くわからなくなってしまったからです。あなたがいない生活など考えられず、あなたが先に逝くことなど想像すらしたことがなかったのです。
 しかし、私の危険な考えを引き留めたのはKとH、あなたが遺してくれた可愛い娘たちの存在でした。私までも失えば、あの子たちは両親を失うことになり、どれほど大きな悲しみを抱えて生きなければならないでしょう。あなたの傍に行きたいと、消え入りそうに頼りない時、彼女たちの笑顔を思い浮かべ、かろうじて健全な判断力が働いて自制を促し、莫迦なことをせずに済みました。
 人にそれぞれ天命というものがあるならば、あなたには52年が与えられていたのでしょうか。そう考えて納得しなければと、ようやく考えはじめたところです。それでは私には何年の天命が与えられているのでしょうね。持病とともに、あとどのくらい生きなければならないのでしょうか。正直なところ、あまり長く生きていたくありません。早くあなたの傍に行きたいですよ。ほんとうに。
 ごめんなさい。こんな聞きわけのないことを言っては、あなたを困らせるだけですね。ちゃんと分かっているのです。あなたと過した長い年月、数々の楽しい思い出。それらをいつも胸に抱いて、できれば明るく楽しく過してくれよと思っているのでしょ。そうなるためにも今はまだ、存分に悲しませてください。ちゃんと天寿を全うする日まで、あなたと共に生きていこうと思っているのですから。
 裏山が色づきはじめましたよ。フェンスの外側にあるあの欅(けやき)の木も色づいて風に葉を落としています。ここは秋がいちばん素晴しいとあなたも言っていましたね。きれいですよ、山も木々も。見えていますね。もちろん、そこから。

11月25日


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