弥生雑感

 三月も、まもなく下旬に入ります。
 この冬は暖冬で、北国でも積雪量が少なかったとか。うちの庭にも雪は一度も積もりませんでした。いつもの冬なら万年青(おもと)やネギ、ヒマラヤユキノシタなどが雪をかぶり、それを喜ぶように見えていましたが、庭の雪景色を見ずに春になろうとしています。ところがここ一週間ほどは寒さがぶり返し、真冬のような天気が続いています。近況報告をいたします。
 
 一月末に届いた刷り直しの詩集は、またもや乾燥不足でうねりがひどいものでした。その旨を伝えますと、出版社はけんもほろろに良品だと突っぱねて聞く耳を持たず、届いた本の状態を確かめようともせず、返金をすると早々に申し出てきました。金さえ返せばいいのだろうという態度は出版社としてあるまじきこと、素人に門戸を開いているかぎり、客の苦情を真摯に受けとめ、改善策を申し出るのが筋です。このような出版社は先が見えています。詩集「愛別離苦」はとんだ災難でした。
 
 出版社の嫌がらせめいたことに愛想がつき、相続でお世話になった行政書士のAさんに代理人となっていただき、無事に解約できました。新たな気持ちで別の出版社から「愛別離苦」を出します。
 一度めの不良品の後、何の説明もなかったことから不安を抱いていましたが、やはり二度めも同じことでした。昨年十二月半ばから二月末まで、このストレスをずっと抱えていました。解約成立後、解放感でいっぱいでした。そんなこんなで二月は気分がふさぎ気味でした。月末にAさんからのお誘いで、彼の行きつけのバーへ出向きました。マスターのUさんも小説を書いておられる方で、前からお邪魔したいと思っていました。
 
 ギネスに始まり、森伊蔵という伝説の焼酎も飲み、Aさんのお勧めでdaiquiri(ダイキリ)も初めて口にしました。ヘミングウェイが好んだというこのカクテルは、キューバの地名から名付けられたそうです。ラムをベースとし、ライムジュースに砂糖またはシロップを加えたものだということです。口あたりがよく、とってもおいしかったのですが、かなり強めのお酒で、じき酔いが回ってきました。
 
 あなたは私を飲みに連れて行ってくれたことがありません。こんな所へ行った、あんな所へ行った、今度はおまえを連れていってやると言いながら、ついに連れていってもらえませんでした。(あなたは生涯に、いったい何名の女性の方々にご馳走なさったのでしょう。)私と行っても何も面白くないからでしょうけれど。あなたは外向きの自分に力を入れていたようなので、外で私と過すのには違和感があったのでしょうか。あなたの好きな外での空間に、日常の一部である私を連れていくのは抵抗があったのですね。あなたは教えてくれませんでしたが、大人のバーの楽しさをAさんやUさんに教えていただきましたから、これからは大いにバーを楽しもうと思います。
 
 三月一日にはドラマシティに芝居を観に行きました。香川照之と寺島しのぶ主演の翻訳ものの芝居です。舞台そのものが久しぶりで、あなたと「近松心中物語」を近鉄劇場で観て以来でした。あの時、主演の樋口可南子を食っていた脇役の女優が光っていましたが、それが寺島しのぶでした。まだそれほど有名ではなかったのですが、いい役者になると思っていました。案の定、すばらしい女優に成長しました。このたびの舞台では、いっそう輝いていたはずです。大阪公演のあと、彼女は結婚の記者会見をおこなっていました。
 
 三月十四日には春場所を観に行きました。これもあなたと行って以来ですが、とっても楽しかったです。いつも椅子席でしたが、このたびはマス席で観ました。「土俵だまり」という所の席は、いったいどうしたら取れるのでしょう。一度、土俵だまりで観戦してみたいものです。朝青龍の八百長疑惑もありましたが、相撲ファンにとってはそんなことは今さら何だという気すらして、今場所も賑っています。把瑠都の休場が残念です。今日から雅山も休場、二敗スタートの朝青龍の優勝に、誰が待ったをかけるかが見ものです。今日は中日、後半が楽しみです。
 
 一月に「とび」を書き上げて連載を終了、堺に投稿したあとは、出版トラブルで消耗し、書く意欲を失いました。限られた世界で単調な生活をしている私には、たいしたものが書けないとも思います。何のために書いているのだという疑問も芽生えました。趣味の域を出ない「書く」ことよりも、自分を活かす道はほかにあるのではないかと考えるのです。これだと思うものを見つけたと思えば、やっぱり違うような気がして、未だ一歩も踏み出せずにいます。でも焦ることはありません。
 
 そんなところへ吉報が届きました。今回は見送ろうと思っていた太宰治賞に軽い気持ちで応募した「言葉屋」が、何と一次選考を通過したというのです。やっぱり書けということでしょうか。二次通過は厳しいでしょうが、楽しんで書いたものが、それなりに評価されてうれしいです。一次だけで私は十分に満足です。あなたのように徒に欲や期待を持つと、しんどい人生になってしまいます。ですから無欲がいちばんです。
 
 来週はひとり暮らしをしていたHが引っ越して家へ帰ってきます。しかし早くも月末には研修センターへ行ってしまいます。そして入社式があり、あの子もやっと社会人です。急いで免許を取得したり、中国へ行ってきたり、小豆島へ行ってきたりと、あい変らず行動的な子です。そんな訳で今月は家の中が落ち着きません。片付けや遺品の整理など、引き続きがんばります。

2007年3月18日

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