静かな年の瀬

 今年もいよいよあと少しで終わります。2004年という年は、生涯で最も悲しい年となりました。
 今日は雨です。静かな年末です。私は風邪をひいてしまいました。背中がゾクゾクして頭が痛いです。でもたいしたことはありません。あなたがいれば、お粥をつくり、塩サケを焼き、卵豆腐や海苔の佃煮と漬物をお盆に載せて、寝床まで運んでくれるところですね。自分でお粥をつくり、お味噌汁やホッケやらでちゃんとご飯を食べましたから安心して下さい。葛根湯も呑みました。今日はお供えはパンとコーヒーだけでごめんなさい。
 年末の大掃除や買物、おせち作りをまったくしない年は初めてです。買物に出ると夫婦連れや家族連ればかりで悲しくなるでしょうから行きたくありません。冷蔵庫には食材がたくさんあるし、行かなくても間に合います。でも、あなたの大好きなお雑煮だけは作ってあげたいと思っていますから、頭痛が治まったらその材料だけは買いに行ってきます。お鯛も大好きでしたが、このたびはありませんよ。あしからず。

 私はなんとか一日ずつ、どうにかこうにか生きています。書いている時と眠っている時。その時だけ悲しみや虚しさから解放されています。あなたが居ないクリスマス。あなたがいないお正月。これからずっとあなたがいない春、いなくなった夏、悲しみの秋、苦しみの冬。あなたなしに季節は巡ってゆくのですね。「ここはほんまにええとこやな」とあなたが云った自然が豊かなこの家は、一人の私には静かすぎてつらいです。ここの寒さは一人でいると、いっそう身にしみます。
 あなたとの年月は、いずれ綴るつもりでいます。私は何を書いても弱い、甘いと感じていましたが、あなたを失った私には、どんなものが書けるのでしょうね。大きな悲しみ、大きな後悔を経験した私の言葉には、どんな変化が表れるのでしょうか。険悪な関係になるまでの私たちは多くの言葉を出しあい、これほど語りあっている夫婦があるのだろうかというほど、いろいろなことを毎日のように語りました。今はこんなふうに私からの語りかけだけになってしまい、とても寂しいです。
 ほとんど語りあわなかった最後の二年間は、私が一人で生きてゆくための予行演習だったのでしょうか。私は黙々と本を読み、黙々と書いていました。あなたはこの二年間、何を考えていたのですか。私はあなたを苦しめすぎていたのですか。もしそうならごめんなさい。私はもう許していたのですよ。棺の中に入れた手紙に書いたように、もうとっくに許していたのだけれど、うまく態度や言葉で表わすことができなかったのです。

 静かな静かな年の瀬です。まだあなたがこの世にいないと信じられません。家じゅうをきれいにし、蛍光灯を変え、神棚を浄め、車を洗い、庭を調え、最後にしめ飾りを飾って満足げに大晦日を迎えたあなたがいない年の瀬は、ただただ静かです。悲しすぎて泣くこともできません。
 また明け方に来てくれたのですね。風もないし、猫でもないのに、戸が音をたてました。あなたですね。毎日でも来て下さい。待っています。
12月30日

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