三日後(日記より)

八月六日(金)

 きのう、あなたが最後に脱いだ下着を洗濯しました。とても気分が悪かったのですね。だってシャツに吐いたものがついていました。何を見ても「ごめんね、ごめんね」と胸が痛くてつらいです。
 昨夜もあなたが入った箱の前で、Kと並んで寝ましたよ。Kが「川の字やね」と言って笑いました。ほんとうにそうだな、この子を挟んで川の字で寝るなんて何年ぶりだろうと思ったら、またせつなくなって泣きそうになりました。そうして朝まで川の字になり、あなたのことを話していました。話しても話しても、少しも楽になりません。だってあなたは決して戻らないのですから。
 夕方、疲れて二階のベッドで休むのに、あなたを抱いて上がりました。そばに置いて仮眠をとりました。目覚めて下へ降りる時には「さあ行こうね」と赤ん坊に言うみたいに話しています。あなたはきっと、こんなふうに私に言ってほしかったのでしょう。これからは、いつも抱っこしてあげる。いつもそばに居るからね。
 今日はKとJさん(Kの夫)が汗だくになってキュウリやピーマンの消毒をしてくれました。今年は花が咲かなくて、あなたが気にしていたサルスベリの木は、枝が黒く、貝殻虫だとKが言っていました。アオキの葉にも黒い斑点が出ているということです。うちの木々は、みんな悲しんでいるのでしょうか。Kは、お父さんが手入れをして守っていた庭は、私のために全部守るのだと言ってくれます。うれしいと思います。でも私はあなたにしてほしい。
 こんなに駄目な私だけれど、今日は夕食をつくりました。頭も躯も動くことを拒絶しているのに逆らうように動きました。あなたの育ててくれた野菜ばかりで、おいしいご飯をつくりました。ピーマンの肉詰めトマトソース煮込み、キュウリの板ずりカツオかけ、にゅうめん入り卵の吸物。これにはシソをたっぷり入れました。KとJさんは、おいしい、おいしいと言って食べてくれました。私も三日ぶりに少しだけ空腹感を憶えました。あなたはあんなに食いしん坊なのに、御飯だけなんて可哀そう。四十九日が過ぎたら何でも食べさせてあげますからね。今あなたは修行中の身だそうです。辛抱をして下さい。
 ずるいじゃないですか。私を最後まで面倒みる、一生かかって償うなんて言っておいて。私はどうしたらいいの。ひとりでなんにもできないって一番よく知っているくせに。私も行きたい。ほんとうはあなたの居るところに。


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